「ぼくはえらい画家になるんだ。そしてみんなに尊敬されるんだ」“元祖アンパンマン”で有名な『十二の真珠』(2012年、復刊ドットコム刊)から引用させて頂きました。画家志望の少年とその家庭教師(?)の会話です。では本題に入ります。
「いよいよ、君はバカだ」
「なぜ、ぼくがバカなんだ。画家になるのはいけないのかい」
「君はえらくなるために画家になるのか。それよりも子供でもおじさんでも、だれでもをよろこばせる絵をかけよ」
2009年(平成20年)、15年近く絶版だった『アンパンマン・ミニ・ブックス』(フレーベル館刊)がついに復刊しました。しかし、本来なら喜ばしいことのはずなのですが、私は残念ながら「何もわかっていない…」とあまり良い気分にはなれませんでした。というのは、復刊といっても、アンパンマンミュージアムなどの“オフィシャルショップ限定商品”であって、一般の書店では販売されないからです。
私は別に自分のコレクションに加えたいという次元の狭い理由だけで復刊を望んだ訳ではありません。やなせ先生自身の原作をアニメの『アンパンマン』しか知らない今の子供たちにも伝えたいという期待も託しました。けれど、オフィシャルショップ限定では、買い求めるのは、子供ではなく、一部のマニアだけです。
やなせ先生がお亡くなりになった翌年の2014年(平成26年)には、私の怒りを更に煽るように『あんぱんまんとしょくぱんまん』(フレーベル館刊)、『しょくぱんまん』(同)、『アンパンマンとカレーパンマン』(同)が復刊されました。もちろん、こちらも一般の書店では販売されません。
『アンパンマン・ミニ・ブックス』がオフィシャルショップでしか購入できない一方、一般の書店では、アニメをベースとした『アンパンマン』の絵本や図鑑、ゲーム、教材などがズラリと並んでいます。やなせ先生の原作は、1988年(昭和63年)のテレビ放送が開始されて以降、これらの目障りな出版物に“領土”を奪われる形で、一部を除き、年々、書店から姿を消したのです。そんな訳で『アンパンマン』には「テレビ化されたら原作が売れる…!」という“神話”がありませんでした。本屋さんに行っても売っていないのだから、私の世代の多くが原作を知らないのは納得できる話です。アニメになぜ、ここまでして迎合する必要があるのか、私には理解できません。これにはやはり、“お金の力”が働いているのでしょうか?
『アンパンマン・ミニ・ブックス』がオフィシャルショップ限定商品として復刊したのは、やなせスタジオをはじめとする関係者が、やなせ先生の原作を“マニアのための作品”だと片付け、全く興味を示さないからでしょう。しかし、やなせ先生はマニアのための作品などは描いたつもりはないはずです。
『十二の真珠』に収録されている『星の絵』という作品を改めて読んでください。前述で挙げた会話のようにやなせ先生は、一部の人間のためだけに描いた作品を好みません。長年、編集長を勤めていた『月刊詩とメルヘン』でも、知的な人間にしか理解できない詩を否定するような発言を何度もされています。だから『アンパンマン・ミニ・ブックス』がオフィシャルショップでしか購入できない限定商品だと聞いた時は、とても情けない気持ちになったのです。
小さなお子様たちにもやなせ先生の原作を読ませてください。よく、「今の子には理解できない…」などという声を聞きますが、そんなことはありません。子供は、案外、先入観に支配された哀れな大人よりも、見慣れないものを受け入れる力があるのです。私自身も、小さい時、図鑑や懐かしのVTRなどで昔の『ゴジラ』を見て、ビックリしましたが、イコール嫌いだったという訳ではありません。古い作品を見たために『ゴジラ』のイメージを壊されたどころか、むしろ、その歴史の深さを知り、子供なりに感動したと記憶しています。昔の『アンパンマン』も、きっと、子供たちに良いものを残すでしょう。そのためにも『アンパンマン・ミニ・ブックス』をオフィシャルショップ限定などと言わないで、一般の書店でも販売して欲しいのです。
それから最後にファンの皆様にもお願いがあります。それは復刊ドットコムでの作品の投票です。あなたの1票がやなせ先生の原作を救い、更には未来を担う子供たちをも育てると信じています!
掲載号 | タイトル〔連載回数〕▽サブタイトル |
1967/07/07 | ボオ氏〔1〕▽登場 |
1967/07/14 | 同〔2〕▽長い道 |
1967/07/21 | 同〔3〕▽にわか雨 |
1967/07/28 | 同〔4〕▽断崖 |
1967/08/04 | 同〔5〕▽波紋 |
1967/08/11 | 同〔6〕▽安いマンション |
1967/08/18 | 同〔7〕▽鳥よせ |
1967/08/25 | 同〔8〕▽ブランコ |
1967/09/01 | 同〔9〕▽赤いボタン |
1967/09/08 | 同〔10〕▽たまご色の月 |
1967/09/15 | 同〔11〕▽トンボ |
1967/09/22 | 同〔12〕▽ふしぎなクレヨン |
1967/09/29 | 同〔13〕▽交響曲「秋」 |
1967/10/06 | 同〔14〕▽森の音楽 |
1967/10/13 | 同〔15〕▽グライダー |
1967/10/20 | 同〔16〕▽リンゴの夕陽レモンの月 |
1967/10/27 | 同〔17〕▽ふん水のひみつ |
1967/11/03 | 同〔18〕▽さよなら流れ星 |
1967/11/10 | 同〔19〕▽きけん信号 |
1967/11/17 | 同〔20〕▽落葉の帽子 |
1967/11/24 | 同〔21〕▽沼の人魚 |
1967/12/01 | 同〔22〕▽人工雲 |
1967/12/08 | 同〔23〕▽天使の輪 |
1967/12/15 | 同〔24〕▽波紋 |
1967/12/22 | 同〔25〕▽白鳥 |
1967/12/29 | 同〔26〕▽スモッグのカーテン |